どのような事業を行われているかお聞かせください。
高齢者福祉での現場経験を活かしながら、幸せに生きるプランナーとして、高齢者、またその家族が感じる老後の心配を見通し、そこから今や未来の希望を感じられるようにサポートしています。具体的にいうと、エンディングノートを高齢者の方と共に作り上げます。ここではエンディングノートを「終活」のためだけに使用するのではありません。「今」どのように生きていきたいか、介護が必要になった時にどうしたいかなど、ポイント毎にこれからの希望を書き記します。そうすることで、ご自身がどのような人生を今後送っていきたいかを明確にし、それを家族に伝えることができます。また、ノートをご本人だけで書くのではなく、可能であればご家族と一緒に書くことで、家族間にコミュニケーションをもたらし、ご本人の本当の希望を知ることで、今後のステップを家族間で理解することができます。
この準備を私の知識や経験を使いながら、介護がまだ必要ではない時から行うことで、日々の生活がより明るくなり、大切に過ごしていけるお手伝いができます。
なぜこのような事業に着目されたのでしょうか?
この事業を考え始めたのは、私が高校3年生の時に、父方の祖母が老人ホームに入らなくても良いほど健康な状態で、老人ホームに入所したことがありました。もともと、家族間のコミュニケーションが多く取れておらず、本人の希望や家族の希望がすり合わせられていませんでした。
このような希望の不一致を起こさず、家族間で一緒に良い老後を考えられる方法はないかと思った時に、社会福祉士という国家資格があることを知りました。社会福祉士を取得すれば、本人や家族、福祉サービスの橋渡し役としての仕事ができると感じ、福祉学部のある大学に入学。卒業後は、老人ホームのケアワーカーとして現場実務を経て、デイサービスの相談員に就任。その後ケアマネージャーにもなり、ご自宅に住む要介護認定を受けた高齢者が、自分や家族が望む生活に近づけるために、どのようなサービスや生活環境を提案・支援すれば良いのか考え、実行しました。
この仕事を15年行った後、娘を授かったことがきっかけで、会社を退職。高齢者福祉に携わる原点ともなった「介護が必要になる前に不安を見通し、家族と一緒に対処していく形づくり」を行うことにしました。介護が必要になって初めて、これからのことを考えるのではなく、今から、どんな老後にしたいか、どんな未来を過ごしていたいか、自分でイメージして、そこに近づけていく、自分と向き合う時間を創っていくことができます。
人生100年時代と言われている今、経済面、精神面、生活において、自分が幸せだな、と思う生活をしていくことがとても大事だと考えます。ご家族もお父様お母様が生き生きと幸せに過ごしていたら、安心ですし、共に幸せを感じることができるでしょう。そして、いざ介護が必要になったとしても、どんな過ごし方が良いか何を望んでいるかが明確になっていれば、見通しがたち、サポートがしやすい体制が築けると考えます。
この事業を行うことで大切にしていることは何でしょうか。
大切にしていることは、ご本人の要望です。どんな生活を望んでいるかなど、彼らの気持ちはとても複雑です。それを紐解きながら大切に思っていることを受容し、どうすればご本人の希望を実現できるか、彼らが大切にしていることをまず、自分の心の声に素直になり、発見し、家族と共有していく、サポートを行っています。
また、コミュニケーションも大切にしています。少なからず介護を受けることの受容、自分の最期を考えることへの抵抗があることと思います。そこに第三者である私が介入していくことはとてもハードルが高いことではありますが、経験を元に引き出しやすいような質問をすることで話せたり、素直になれたりすることもあると私は感じています。ご本人の生きる意欲・未来の生活の楽しみに繋げられるように、未来のプランを立てると同時に、可能であればご家族に共有することで、ご本人と家族にもコミュニケーションをもたらすことを、大切にしています。
エンディングノートを書くことへのメリットをお聞かせください。
エンディングノートを書くことで、自分自身を知る棚卸しができることと思います。幸せを生きるプランナーがそこに入ることで、タブーで聞きづらいことを自然に聞き出し、ご本人の思いをより細かく紐解いて行きます。
いざというときの備えとして、本人の意思に沿って、行動できることは残された方やご家族にとって、安心で、心残りがありません。
また、書く本人にとっても、この先どのような未来を築きたいか、ゴールに向け、今何ができるかを考える良いきっかけとなります。人生100年時代と言われている今、ノートを作成することで、自身の人生について考え、そのための備えや課題が明確になります。その上で、「老後不安」から見通しの立つ楽しみへの変換をもたらします。
幸せを生きるプランナーとしての、実際の体験をお聞かせください。
なかなかエンディングノートを書くことができなかった私の夫の祖母が、プランナーである私と書くことで、自分自身が何を望んでいるのかを明確にでき、さらに祖母の家族も将来の不安が緩和された、心構えができたという意見をいただいています。
3~4年前に祖母は、息子からエンディングノートを受け取っていましたが、何を書いて良いかわからず、ずっと書けず仕舞いでした。そこで一緒に書いて欲しいとご依頼いただき、一緒に書くことになりました。そこでは、どういう最後を迎えたいかだけではなく、介護が必要になった時に、どこまで家にいて、どの状態になったらプロに任せるか。さらにお墓のこと、相続のこと、お金のこと、家族と今後行って行きたいことなど、細かくかつ具体的に書き記して行きました。また、ケアマネージャーとして、今の生活においての注意点、素晴らしいから続けていくと良いこと、トライしてみたら良いこと、など具体的なアドバイスをさせていただきました。
この工程を行うことで、普段の会話からは聞けないような内容を、私との会話の中から聞くことができ、エンディングノートを作ることができました。祖母もご家族も満足し、暖かい場になり、会話がより生まれたとも聞いています。理想はご家族と一緒に同席のもとエンディングノートづくりができたら良いですが、そうでなくとも、まずは作ることが大切だと考えます。
最後に、エンディングノートを通して何をお伝えしていきたいですか?
エンディングノートと聞くと、終活や自分の死を迎える人がやるイメージですが、そうではなくて、今これを読んでいるあなたにも是非必要なことだと思っています。目の前のことに必死になって充実されていることと思います。ですが、本来やりたいこと、やってみたかったこと、しておきたいことがあっても、日々の行動に埋もれていませんか?その埋もれているところから引き上げて、自分の人生に存在させて、行動できたらどうでしょうか?
それがエンディングノートを書くことで棚卸しができて、明確になります。こんなこともあんなこともやりたい、やるぞと、未来に視線を向けることができます。人生100年時代と言われていますが、どう日々を過ごすかがとても重要です。何をしている自分が浮かびますか?どんな生活をしていたいですか?どんな人と一緒に過ごしていたいですか?そこから今の行動が変わります。
一緒に語りましょう。自分の心の声に素直になりましょう。やりたいこと・夢は、私たちを突き動かす原動力になりえます。
仕事で多くの人生の先輩やそのご家族と関わってきたからこそ、今の年齢の自分がやっておいたほうがいいことが明確になっているのかもしれません。常々、自分や家族がいつ病気になったり、死んでしまったり、するかわからないから、後悔しない、いつそうなってもいいような生き方をしたいと思うのです。
「今を生きるためのエンディングノート」は皆さんの人生に新たな息吹をもたらすことを創り出します。
Photo : tyado
Movie : Tsuyoshi Okuda
Type : Fujico
Location : Numero siete